【第221号】幹部の伝達能力

1.立場の違い

 ある企業の幹部2名のトップの指示事項の部下への伝達の仕方や内容があまりにも違うので、驚いたことがある。仮にその幹部2名とAさんとBさんとしておこう。
 Aさんは、まじめで実直、遅くまで仕事をすることを厭わない幹部。Bさんは、温厚でガッツがあり、部下の面倒見がよい幹部。
 この2人の幹部は、トップから指示を受けると、次のように考えて伝達する。Aさんは、「社長の言いたいことを正確に伝えなければ。間違って伝えると自分も部下も迷惑する」。Bさんは「部下にわかりやすく説明しなければ。噛み砕いて説明してあげないと誤解するし、最初からあきらめてしまう」。結果、どうなるか。Aさんは、あまりにストレートに伝えすぎる結果になる。Bさんはあまりにも噛み砕きすぎてしまう。

2.何を目的としているか

 AさんもBさんも良かれと思ってやっている。しかし、部下からみると、あるいは周りからみるとどうか。Aさんの場合は、ストレートすぎるために、伝わらないことが多くなる。表現が難しいし、目的が見えにくい。社長から幹部に伝えるときと、幹部から部下に伝えるときは、表現を変えないと伝わらないし、目的もより明確にしないとダメである。感じている危機感が違うからである。Bさんの場合は、逆に分かり易くしようとし過ぎて、本来の指示や目的がずれてしまう。つまり、部下が指示通りに仕事をこなしても結果がついてこなくなってしまう。
 指示伝達はコミュニケーションの手段である。それが行われることが目的ではない。如何にしてトップの指示を正しく伝え、部下を動かし、成果を上げていくか、である。

3.上とも下とも向き合えるか

 幹部は、トップに対しても、部下に対しても逃げられない。どっちにかに逃げる、ということは、立場がぶれる、偏るということになる。それは、どちらかの不信を買うことになり、結局は組織が機能しなくなる。最終的には、双方から信用されなくなる。
 幹部は、トップと真剣に向き合えているか、が重要。部下は、社長に言いたいことがあっても言えない。機会がないし、勇気もない。幹部は、トップに意見具申する機会があるし、言わなければならない立場でもある。意見具申は、何も反論しろ、ということを言っているのではない。違う立場からみて、最適と思うことを言ってみろ、ということ。
 部下に対しても同じである。社長の悪口を言う、他の幹部の悪口を言うことについて、同調してはいけない。諭してあげ、なぜそういう指示になるのか、なぜやらなければならないのかを説明することが必要なのである。