【第126号】事業承継と権限委譲

1. 経営の“キモ”を渡しているか

 事業承継は本当に難しい。親子であるのに、親子であるからこそ、難しい。しかし、難しい、難しいといっていられないのも事実である。親子の不仲イコール経営幹部の内紛になるからである。
 我々がしっかりと事業承継しているな、と判断するひとつとして、経営(事業)の“キモ”を渡しているかどうか、である。開発型のメーカーであれば、開発機能を引き継いでいるか、販売会社であれば営業情報の集約を、小売業であれば、主力店舗をしっかりと把握できているか、ということである。代表権の問題もあるが、金融機関との付き合いもあり、一概に先代が代表権を持っているから引き継いでいない、代表権を手放したから引き継いだ、にはならないのである。
 そして、最後は「人事権」である。組織編制という権限が委譲されていない限り、権限が移ったことにはならない。

2. 部下は敏感に感じている

 形だけの事業承継になっているのか、そうでないのかは、部下は敏感に感じ取っている。「指示命令系統が2重になっている」「方針がクルクル変わる」「管理職が2色に分かれ始めた(派閥の発生)」「社長に聞いてもわからないアンタッチャブル領域が目立つようになってきた」という事象が起きるようになるからである。
 せっかく方針を作成して社員の向く方向をひとつにしようとしても、トップ二人が違う方向を向いていたのでは、社員は白けてしまう。
 実際にこれまで親子喧嘩をしているトップ、№2を何人も見てきたが、周りで心配してくれる人たちがかわいそうである。

3. やらせてみることが大事

 親からみれば息子が頼りないのはどこの世界でも同じである。しかし、自分もいつまでも生きられない。突然倒れて、いきなりバトンを渡すより、まだましなのである。
 やらせながら、修正していけばいい。自分のことを振り返れば、しっかりと見える部分もあるはずである。
 また、先代が「おれがおれが」と言っている間は、次代のブレーンが育たない。社長が変わっても、役員や幹部が若返らないということにもなりかねない。これではうまくいかない。その状況で新社長がやりたいことができる可能性はかなり減ってしまう。
 事業承継とは「マイカンパニー」から「アワーカンパニー」への変革である。社員が、自分たちの会社だという誇りを持てるように、権限委譲を進め自主性の尊重を図っていくことが重要なのである。