【第119号】経営者の宿命

1. 一人では何もできない

 経営とは経営者の思いを社員の協力をもって実行していくことである。経営者ひとりでは何もできない。しかし、業績が好調になるとここを忘れてしまう経営者は多い。「俺のお陰でうまくいっている」「俺の戦略がなければこの会社はだめだ」。それは正しいかもしれない。しかし、それが前面に出てしまうと、お客様も社員の心も離れていってしまう。我々がよくいう“暴走”状態になってしまうからだ。お客様や社員がついてきてくれているか、が目に入らなくなってしまう。
 こういう状態になってしまうと、もうひとつの弊害が出てくる。社員の思考停止である。何も考えなくなる。当然、人材育成も進まない。経営者は自分が周りを置き去りにするスピードで前進しているので、社員の成長スピードに不満を持つ。信用しないようになる。ますます、自分独りで物事を進めていこうとする・・・

2. 他人の言うことが聞けなくなったら引退すべき

 さまざまな企業を見てきたが、経営者が耳の痛いことを言ってくれる人を遠ざけ出したら危ない。本当の危機の時、誰も指摘してくれないからだ。業績が悪化した企業、身売りすることになってしまった企業、倒産してしまった企業、いずれも経営者が回りにイエスマンを配置するようになった企業に多い。
 トップダウンばかりの企業は一定レベルまでは成長するが、いつかは壁にぶち当たる。部下は自分たちの意見や考えが反映されないため、ストレスを溜めることになる。自立心の高い優秀な社員から先に辞めていく可能性が出てきてしまう。
 信念を曲げる必要はないが、「もしかしてそういうこともあるかもしれない」と進言や忠告に耳を傾けることが重要だ。その姿勢がなくなったら引退を考える時期かもしれない。

3. 頭を垂れる稲穂になれるか

 「良い経営者」と言われる人は、厳しかろうが、難しい性格だろうが、嫌なことでも正しいことは受け入れる度量がある。周りからの助言を「痛いところを突かれた」と思いながらも実践していくのである。
 お金は墓場に持っていけないのと同様、企業も持っていけない。つまり私物ではない。いつかはマイカンパニーからアワーカンパニーへと変わっていく必要がある。そのためには、当然、助走期間が必要で、その助走期間中に、制度の構築や人材の育成を図っていくことが重要なのである。
 企業は経営者にとってはわが子同然。だからといって過保護になってもいけない。いつかは親離れ、子離れが必要になる。その準備が最終的には子供(企業)のためになるのである。