【第56号】高齢者人材の活用

1.延長された5年をどうみるか

 60歳定年から65歳定年と移行しつつある。その5年をどう活用するのか、まだまだ検討が不十分な企業が多い。「仕方が無い、あと5年長く働いてもらうか」というレベルである。これでは、働く側にとっても良い状態とは言えない。
 多くの企業が雇用延長のスタイルであり、1年ごとの契約であることと人数も限られているということから、ゆるい対応になっているのだと思うが、今の国の財政状況をみれば70歳定年が打ち出されてきても不思議ではない。イギリスでは年金支給が68歳に引き上げられようとしている。日本もいずれそうなる日が来ると思っていたほうがいい。
 であれば、細切れの1年の積み重ねと取るのでなく、まとまった5年の単位で考えて、その人材をどう活かすか、その社員にどう活躍してもらうのかを考える方が合理的である。

2.今から手を打つべし

 これは、制度だけの問題ではなく、その会社がそういった人材に何を期待するのかをある程度、明確にしておく必要がある。晩婚化が進む中(2008年の平均初婚年齢は、1950年に比較して約5歳程度上がっていて、男性30.2歳、女性28.5歳となっている:厚生労働省調査より)、現在の定年60歳前後でも、まだ子どもの養育費や住宅ローンを抱えている場合も増えてきている。
 給料を下げて、雇用を守っていればいいということでは、優秀な高齢者人材を確保できなくなり、“居残っている”だけの高齢者社員ばかりを抱えることになりかねない。
 よって、高齢者人材の処遇だけでなく、どういう役割りを担ってもらうのか、そしてその貢献度をどう評価するのか、も必要になる。

3.若手への配慮も考える

 もうひとつの問題は、若手への配慮もするべきだということである。現在の若手の雇用問題(15~24歳の男性の失業率は9.0%、女性は8.7%:22年9月・総務省調査資料より)は、高齢者の雇用確保と裏表の部分がある。高齢者の雇用を維持するために、若手の採用を抑えざるを得ない。
 ここ数年、経営者の事業承継が多くなっているが、社内の人材の世代交代が遅れ始めている。これも同様に、雇用のバランスが崩れているせいである。経営者はどんどん若返っているのに、社内の人材は高齢者増えて、社員の平均年齢が上昇している。そのアンバランスをまだ企業は解決しきれていない。
 60歳からの賃金水準をなんとかすれば済む問題ではなくなっているのである。全体の水準を見直し、適正に分配する仕組みを構築しなければ、若手は採れない、採っても不満が募り辞めてしまう、高齢者も不活性化して戦力とならない、という最悪のケースにならないようにしてもらいたい。