【第52号】浅田真央選手にみる成長の難しさ

1.肉体(事業規模)と能力(人材)のバランス

 幼少時代から活躍している選手は、身体が小さかった時代の得意技と身体が大きくなってからの得意技が同じであるとは限らない。身体の成長に応じて、筋力が成長するとは限らないし、精神面での成長も欠かせないからである。そのバランスを崩して、大人になって表舞台から消えていく選手も多い。
 これは企業にも言えることである。会社の規模が大きくなってくるに伴い、人材のレベルもアップしていかなくてはいけないが、そのバランスを崩している企業は多い。規模の成長を意識しているケースは少なく、高度成長期やバブル期に、環境の成長に伴い“結果的”に会社も成長したというものが多い。当然、計画的な人材の採用や育成を行えていないために、今、そのアンバランスに苦しんでいる企業が目に付くのである。

2.長所を伸ばすか、欠点を克服するか

 同じように、成長の過程で長所を伸ばしていくのか、欠点を克服していくのかの選択が難しい。いろいろな見方があると思うが、浅田選手は、ライバルと比較して劣る部分であった表現力に力を入れて練習するあまり、幼少時代の武器であったジャンプの成長が止まり、今ではそれが大きなウィークポイントになってしまった。圧倒的強みがなくなったときの脆さである。
 企業も自分たちの強みがわからなかったり、疎かにすることで、その強みが失われ、弱みを克服する前に、ライバルに負けてしまう例は多々ある。ソニーはウォークマンに代表される「ポータブル音楽プレーヤー」では圧倒的強さを持っていたし、ブラウン管テレビにおいても強かった。ゲームもプレイステーションはそれまでのゲーム業界の地図を塗り替える力を持っていた。しかし、いずれもその次が続かなかった。なぜなのか。

3.ライバルと己のいずれに勝つのか

 弱みを克服する路線をとっている際、視点の先にあるのは、「ライバル」であることが多い。「ライバルに負けている」「ライバルはこんなことができている」。人間の場合、それが心理的なあせりとなり、強みも輝きを失っていく。プロ野球選手で見られることだが、バッティングで調子が悪いと守備でもおかしくなることがある。
 企業も商品開発において、「ライバル」しか見えなくなると、売れない商品ばかりを作るようになる。消費者の「ニーズ」と乖離してくるからだ。戦略を構築する場合も同様である。ライバル分析を緻密にやりすぎて、消費者目線を忘れてしまうことがある。
 人間も企業もライバルに勝つのは結果であって、自らが掲げる「志」の貫徹をまずめざすべきである。何を成し遂げたいのか。技や商品はその“手段”でしかない。