【第38号】幹部社員の記憶力

1.記憶力は低下する

 ある企業の中堅社員から相談を受けた。その内容はこんなものであった。「私の上司の記憶力が低下してきたのか、報告をしているのに、聞いていないといわれることが多くなってしまった。どうしたらいいでしょうか」。どうも、電話での報告やミーティングでの報告が多いため、記録に残っておらず、上司から「聞いていない」と言われると反論できないようであった。
 人間の記憶力は低下する。しかし、覚えなければいけないものは日々増えてくる。このようなケースは結構あるのではないだろうか。
 きちんと報告しているのにも関わらず、上司が忘れてしまったがために、報告自体がなかったことになってしまうのでは、部下もたまらない。これが社内の問題で済んでいるうちは、笑って済ませることができる面もあるが、お客様を巻き込んでしまうようになると信用問題になってしまう。また、社内であってもこれが人事考課に影響を与えるとなると、部下も笑って済ますことができない。
 タナベ経営では「ダブっても報告」といって、直属の上司だけでなく、その上の上司にも報告しなさい、と指導している。これは全員の価値判断基準を統一するというだけでなく、部下のための安全弁としての意味もある。報告があったにも関わらず、2人がそろって「聞いていない」という反応をすることはないからである。

2.信頼を失わないために

 上司が何度もこの「忘れた」「聞いてない」を繰り返すと当然、部下からの信頼を無くしてしまう。覚えている自信がないものは、必ず自分が記録に取るか、部下に記録を残させるかをする必要がある。
 いろいろなケースを見てきたが、この場合は自分で記録に取るほうをお勧めする。自分の記憶力のなさを部下に押し付けると、人間性の面で部下からマイナス評価される場合があるからだ。
 また、記憶力が低下してきた、と感じる幹部は、日頃の発言にも注意しておくべきである。本人が忘れている部下への発言が、部下を傷つけていた場合、パワハラが原因の「うつ病」などになったときの対応が適切にできなくなる可能性がある。当然、部下からのSOSにも気付かない。
 言葉というものは重いものである。受け入れる場合でも、発する場合でも、軽んじてはいけない。上司の何気ない一言が部下を落ち込ませている場合もある。逆に、気をつけて使えば、これほど頼りになるものはない。
 「最近物覚えが悪くなって」という幹部の発言は、ジョークにならないので注意する必要がある。