【第34号】異端社員の活用

1.“鰯”のような集団になっていないか

 こういう話を聞いたことがある。陸揚げした鰯は鰯だけしか入っていない水槽で輸送すると、途中で弱って死んでしまうことが多いが、天敵となる魚や生き物(もしくは嫌いな魚や生き物)といっしょだと、死なせずに輸送できるらしい。これはどうも一種の緊張感と関係があるとのこと。
 人間の組織も同じである。長い間、同じ顔ぶれで仕事をしていると、緊張がなくなり組織としての活性を失ってしまう。いわゆる「なあなあの関係」である。こういう状態になると「気心が知れているから仕事がし易い」という気持ちなりがちであるが、裏を返すと失敗しても傷のなめあいになってしまい、誰も耳に痛いことを言わなくなってしまう。
 こうなると「鰯の集団」である。

2.組織内の「常識」は「非常識」

 ある企業の採用担当者から聞いた話だが、ある時、中国に進出している関係で中国から研究で日本に留学していた学生を採用した。すると、その社員が刺激になって研究室が活性化したのだそうである。研究は毎日地味な作業が続いてしまいがちである。また、みんな優秀な大学を卒業しており、しっかりとした自分の意見を持っている反面、なかなか人の意見を受け入れがたい気質も持っている。
 そこに文化も考え方も違う社員が入ってきたのである。仕事に対する姿勢も、結果に対する姿勢も、勉強に対する姿勢もその中国からの留学生だった社員の方が上だった。ハングリーさが違ったのである。なんでもっとみんな勉強して働かないのか、と。
 その会社の良かった点は、その違いを日本人の社員が肯定的に受け止めてくれたことであった。もし、同じことを日本人が言ったらどうだったか。

3.異分子の衝突が創造性を生む

 本田宗一郎もこのよう言っている「もし研究グループがいわゆる優秀な人材だけで構成されると、そのグループは大抵途中で挫折する。ヘソ曲がりの人はヘソ曲がりぶりを発揮し、テンポの遅い人はテンポの遅さでかえって問題の本質に決定的に迫ることができるかもしれない」。
 組織内の価値観の共有は大事であるが、個性の均一化は意味をなさない。価値観を統一すべき、となると個性を殺してしまったり、生かす場所をなくしてしまったりする。それぞれが自分の個性を発揮できる環境整備が大事なのである。発揮された個性を生かす組織が、その組織の存在意義を満たすことができる、つまり目的・目標の達成が可能となる。
 鰯の集団にならないように、個性の多様化に目配りをしてもらいたい。