【第72号】震災後の対応ですでに差がうまれている

1.筆者の体験

 個人的なことで恐縮であるが、この年度末のタイミングで筆者は新潟支社へ転勤することになった。震災で被災した自宅の後片付けと引越しが重なってしまった。
 震災後、そのために不動産屋、引越し業者、カード会社などあちらこちらと電話連絡する必要があり、震災後の電話不通状況から何とか繋がった先へ連絡をした。その時の電話口の対応は大きく違った。変更前の住所が仙台だとわかると、こちらを気遣う言葉が続くところがあると思えば、事務的に処理を進めるところもあった。あるカード会社の対応は本当にお手本になるものであった。まず受付のオペーレーターが「大丈夫でしたか」と声がけ、担当者にかわり手続きを終了してから「○○より聞いておりましたが、大丈夫でしたか」の声がけ。最後に「我々はできる限りの支援をしておりますので、遠慮なくお申し出ください」のセリフ。住所変更の手続きだけで、相手を気持ちよくできるのである。

2.個人の差で片付けてよいのか

 この差を電話に出る担当者の感性の違いだから仕方ない、で済ましていいのか。
 大きな災害は人のエゴをむき出しにする。温まる出来事がある一方、傷つく出来事も多い。そんなときだからこそ、被災者からの電話への応対が重要になる。印象が普段の倍、プラスにもマイナスにも働くからだ。
 受け答えにも最低限のマニュアルは必要である。気持ちがこもっているか、いないかは別として、今回筆者がかけた数本の電話で「大変でしたね」の言葉がなかったのは、2本だけであり(偶然か両方とも女性担当であった)、うち1本は仙台市内の企業だった。おそらく、その電話に出た女性も被災したと思われる。にもかかわらず、相手を思いやる対応ができなかったことは問題である。

3.教育訓練の重要性

 本来ならば、電話の受け答えなどということはある程度、家庭の「しつけ」の範囲でできていなければならず、ましてや相手の状況を考慮するなんていうのは常識の範囲である(今、電話に出られる状況かどうかの確認は誰もがすること)。
 こういったものも今は教育訓練が必要になってきてしまっている。習慣化していないから、マニュアルにあったとしても実践できない。どこかで習慣化するまで繰り返す必要がある。これは日常の業務とともに教育していくOJTではなかなか身に付かない。OJTはあくまでも身に付いているかを確認する場とし、どこかで機会を作って徹底的に教え込む期間が必要である。実施する場合は、電話対応だけでなく、“気づき”をテーマにカリキュラムを組み、教育すると効果的である。