【第288号】人を育てられる人がいるか

1.No.2がいない

 今、多くの企業が人材の育成に悩んでいる。教育にはお金をかけているし、教育を引き受けてくれる研修機関もある。なぜだろうか。ひとつには、彼らが「やり方」しか学んでいないからだ。例えば、最新のハイブリッド車を購入したとしよう。これまで乗っていた車は10年以上経ったガソリン車。購入時に取扱説明書は読んだ。つまり「操作方法」は“知った”。しかし、乗ったことがない。説明書と車の機能を照らし合わせて、動かしていないから実感がない。また、全ての機能を覚えきれない。乗車の度に毎回行う動作(エンジンとかける、アクセルを踏む、ブレーキをかける、ギアを入れるなど)は覚えられても、ナビゲーションの使い方、エアコンの調節などは、忘れてしまうことが多い。マネジメントやビジネスルールも同様。「あり方(使い方」を学んでいないのだ。

2.居心地のよい関係

 もうひとつには、居心地のよい関係が出来上がってしまっているからだ。組織には、部長、課長、係長などの役職があり、それぞれの役割がある。そうすると、部長の役回り、課長の役回りを演じている方が楽チンになってくる。将来自分が部長になった時のことを考えて「補佐」する。将来、課長になった時のことを考えて「補佐」する、などという今の自分より上位のポジションを補佐することがない。余計なことをすると、嫌がられるのでは、煙たがられるのでは、と詮索し、やろうとしない。余裕もない。そして、与えられた役をこなしている方が、居心地が良くなってくる。お互いの関係も余計な緊張が生まれず、予定調和の中で落ち着いてくる。

3.成長することへの意欲

 居心地がよい状態の中にいる人間は成長しない。違和感を感じながら、自分を伸ばしてくれる環境に身を置き、その中でもがく人間だけしか成長しないのだ。自分自身を、そして自分の部下をそういう環境におけるか。自分自身が居心地のよい場所から出られないのだから、無理な話しである。これからは、成長することが人生を豊かにしてくれること実感し、成長への意欲を高めていかなくてはいけない。そして、それをお互いに共感し、人を成長させることができる人材を社内に増やしていかなくてはいけない。組織のトップしか成長しない会社はいずれ限界がくる。スキルの成長だけでなく、人間としての器の成長は、人としての「あり方」を学ぶ必要があるのだ。筆者が、その「あり方」を教えるようになったのも、こういう事情がある。