【第312号】モラルハザード

1.マヒする感覚

 また日本を代表する企業に不祥事が発覚した。三菱自動車の排ガス基準対策の偽装である。「どうせバレないよ」「他もやっていることさ」という感覚はなかったか。規制する側(国交省)も検査する側もみんなひとつの業界の中で一種の“ムラ”である。原発の事故と同じ体質である。政治家もお役人も厳しいことを言っているが、消費者からすれば、みんな同罪である。結局、迷惑するのは、庶民なのである。以前も指摘したが、熊本地震の対応でも、行政が上から目線で「やってやっている」「支援してやっているのだ」「お金を出してやっているのだ」では、所詮機能しない。友人たちがボランティアで入ってびっくりしたのは、避難所が組織として機能していないことだった。

2.生きるために

 東日本大震災の際、行政側が気を使ったのは、現場の把握だった。それが、熊本地震では生かされていなかったようだ。今回、不正に関わった社員も、知らずに巻き込まれた社員も「生きるために」会社を守ろうとして、結果として不正に関与することになった。過去の不正も同様である。だましてやろう、悪いことをしてやろうとしてやったのではない。「結果として」不正をはたらいてしまったのである。結果として、何のために仕事をしているのか、を常に自分の胸に問いただしている人間でないと、こういったリスクは避けられないのかもしれない。お金のため、名誉のために人間としての「魂」を売ってしまった人間はいずれ、こういった天罰を受けるのだろう。人は「志」や「信念」に動かされるが、「私欲」「我欲」に対しては、動かされるどころか嫌悪すら覚えるものだ。

3.優先順位

 大事にするものを間違えてはいけない。商売は利益をあげるものであっても、それは信用の上に成り立つものだ。信用を裏切る行為をしてはならない。原発が単に悪いと言われているのではない。事故が起きないと言い続け、対策を経済的な視点からだけで先送りにしてきた結果、事故が起こったからだ。放射能の安全基準を引き上げたことだけが悪いのではない。全員を避難させて安全な場所で生活をさせることと、地域を再建させ保障を打ち切ることを天秤にかけて対応を決めることに問題があるのだ。弱者の生活や利益、消費者の利益を第一優先にしているだろうか。自分たちの都合、体面を優先していないか。このところの社会を賑わす事件はそんなことを考えさせるものが多いのは偶然なのだろうか。