【第322号】どこまで信じて待つか

1.お手本になっているか

 部下を育てていると、不安になる時が必ずある。「わかってくれているのだろうか」「成長してくれているのだろうか」など、手応えを感じられずに、部下の指導に自信を無くしてしまうのだ。返事は素直に「はい」と言ってくれている。お客様のところに同行した際も、真剣に話しを聞いている。形だけを見れば、わかっているようにも見える。しかし、大丈夫なのだろうか。上司として、手本になっているのか、見習うべきところを理解してくれているのか、それは部下の行動を見ないとわからない。しかし、四六時中一緒にいるわけにはいかない。確かめられないことも多い。「教えたことがどこまで再現できているのだろうか」「お客様へ正しく自分の言いたいことを伝えられているだろうか」など知りたいことだらけになる。

2.いつから一人でさせるか

 そんな不安があるから、なかなか「一人で行ってこい」「一人でやってみろ」と言えないことも多い。一通り教えたはずなのに、いつまでたっても半人前扱いになってしまう。「いつかはチャンスが来るだろう」「もう少し様子をみるか」など、先送りしてしまう。確かにお客様に失礼があってはいけないし、クレームを発生させる事態になるのも困る。しかし、やらせてみないと、わかっているかどうかの前に、どこに問題があるのかさえ、わからない。上司としての自分の足りないところがあるかもしれない。教え方に問題があるかもしれない。それに気づけないのである。ある程度教えたところで、まずはやらせてみることである。

3.効率だけでは育たない

 人の成長スピードはそれぞれである。時間との戦いでもあるが、成長に加速がつくポイントまで待つ必要がある。そこを過ぎると急速に成長する。そのポイントまで耐えられずに部下本人や上司が諦めてしまうのである。同行営業や繰り返しのロールプレイングなど、時間や手間のかかることも多い。生産性だけを考えていては、成り立たない部分も多い。費用対効果ではない。投資とリターンなのである。採用や教育など、人に関することは「先行投資」となる。しかし、そのリターンは倍以上になる。リターンを得るまでは、ある意味、忍耐も必要となる。大きな果実を得られるかは、もちろん育成の中身も重要であるが、成長の加速ポイントまで待っていられるかも重要となる。部下の成長を信じて、待つことも人を育成していくうえで必要なことなのである。